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あしあと

    『個性キラリ☆自分流』第37回~能楽師として活躍する女性~ 能楽師 シテ方観世流 松井 美樹さん 「日本伝統文化の魅力を次の世代に」

    • [2021年12月22日]
    • ID:15091

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    松井 美樹 さん(能楽師 シテ方観世流)「日本伝統文化の魅力を次の世代に」




    まつい  みき
    松 井  美 樹 さん

    能楽師 シテ方観世流

    ご趣味は

      読書と神社仏閣巡りです。読書は「能と仏教」に関する本にはまっています。神社仏閣巡りは謡曲に関する所だけでなく、お参りすることが好きです。

      能以外だとフィギュアスケートを観るのが好きですが、芸術的な動きや体幹がしっかりしている等、能に関連させて観てしまいます。

    能楽師になったきっかけは

     能楽師の家に生まれたわけではなく、一般家庭で育ちました。小学生の頃からお寺に行くのが好きで、学校の授業で古典に興味を持ち、それが高じて京都の短大に進学しました。せっかく京都の学校に入学したので、京都らしいクラブに入ろうと思っていたところ、能楽部のポスターが目に付きました。仕舞のお稽古されている先輩方がかっこよく、また、平安神宮での薪能を観て、入部することにしました。能楽部は、年に一度の自演会で、1,2回生はお仕舞、3回生は舞囃子、4回生で能を舞います。短大だと舞囃子も能も舞えないと言われ、どうしても能を舞いたくて、四年制大学の3回生に編入しました。

     大学卒業後は、伏見にある文化財保存修理研究所に事務職として就職しました。偶然、大学で能を教えてくださっていた杉浦先生が職場近くでお素人さんのお稽古をされており、仕事帰りに1年間お稽古に通いました。仕事は面白かったのですが、半年経ったあたりから「自分の人生はこれでいいのか」という思いが募り、「一番やりたいのは能だ」と気付きました。そして、杉浦先生の下で住み込みの書生を7年間続け、その後、独立しました。

     この1月に、若手の登竜門といわれる「道成寺」をさせていただきました。先生や両親にご恩返しもでき、能楽師として一区切り付きました。少しほっとしていますが、また次の課題に向けて頑張っていかなければなりません。

    一日のスケジュールは

     私の場合、本役といって、主人公を舞うのが年に1,2回あります。本番の2日前に申し合わせ(リハーサル)があり、それまでは自主稽古をしています。早くて1年、遅くとも半年前までに先生から型付けをいただきます。それを写し、DVDや資料を見、謡を覚え、実際に動いてみます。最初は謡も本を見ながらきっちり覚えて、型も書いてある通り、先生のおっしゃる通りにすることが大事です。稽古をして、舞い込んでいるうちに、自然と先生の通りにやっているつもりでも自分の色のようなものが出てきます。自分の色は無理に出すものではなくて、舞い込んで、謡い込んで、自然とにじみ出てくるものだと思います。同じ型をしていても、その人により全然違うものになります。それがその人の色だと思います。

     普段のお稽古は、お素人さんのお稽古もあるので、丸一日稽古場にいることもあれば、午前中だけお稽古で午後からはお休みのこともあります。学生さんのお稽古は夕方からです。その合間にパソコンの用事、番組(公演のプログラム)や資料を作ったり、自分のお稽古をしたりします。

    能楽師をしていて良かったこと、苦労したことは

     30代までは、能楽師になって、この道で本当に良かったのか、自問自答を繰り返し、「もし、やり直せるなら今かな」という気持ちがありました。30代後半くらいから、だんだん覚悟ができてきて、40歳くらいになって、やっと心底、「能が楽しい」と感じることができました。

     能楽師になって良かったことは、わからないというのが正直な気持ちです。しかし、後悔はありません。やりがいのある仕事です。いつ死んでも「良い人生だった」と思えたら、良いことだと思います。

     苦労したことは山ほどあります。まず、「家」というものが重視される中で、「家の子」ではないこと。能楽師の家の子は3歳くらいから舞台の経験があり、24歳くらいで本格的にこの世界に入った人間とでは下地が違います。思考回路も技術的なことも能楽の世界に入った時点でギャップがありました。まず、思考回路を能の世界の常識に持って行くのが大変でした。技術的な面では、家の子は書生に入る前から父親からお囃子や謡のことを教えてもらっていることが多く、大学の部活動くらいで何も知らない私は、付いていくのが本当に大変でした。次に、女性であること。下に見られ、嫌みを言われたこともあります。男性より会に出られる回数がダントツに少なく、どうしても経験が不足する中、何かの場で、できなかったら「できない人」と思われてしまいます。実践が少ないのに同じ水準を求められるのが、苦しいところです。もちろん、最初から応援してくださる方もいました。

     自分が好きで入った道なので、少しくらいはわかっていたつもりでしたが、違いを目の当たりにすると理不尽だと感じることもありました。それは今でもそう思うことがあります。

     周囲の皆さまの助けや、私自身地道にやってきたからか、ここ何年かで舞台や会にも出していただけるようになり、少しずつ女性に対する意識が変わり、自分が能の世界に入った当初と今では随分変わったと思います。今いる自分たちがしっかりやらないと女性はだめだと思われてしまうので、後進の女性ためにもしっかりしていかないと!と思っています。

    日頃心がけていることは

     体調管理です。年と共に体力は落ちる一方なので、体力を維持することと、体重を増やさないことを心掛けています。体重は増えすぎると正座をするのがしんどくなりますし、膝が悪くなります。大きいものを舞うときはそこが体調のピークに来るよう、普段から無茶をせず、自分の体がどういう状態なのか気を付けています。

    周囲の人(家族や友人など)の反応は

     能の道に進むと決めたとき、家族から大反対されました。母は昔から自分の頑固な性格を知っているので、しばらくしたら「したいようにしたら」と言ってくれましたが、父とは半年間、帰省のたびに大喧嘩し、最後まで反対されました。しかし、お盆と暮れには連れ立って先生のお宅までご挨拶に来てくれました。先生からはいろいろ言われることもありますし、褒められることはめったにないので、しょんぼりして帰る両親の背中が今でも目に焼き付いています。大学のクラブの先輩からは「絶対無理。やめといた方がいい。」と言われました。しかし、「無理」と言われると、ますます挑戦してみたくなるのが人間、私の性分です。

     反対していた父も、今では私がインタビューを受けたり、新聞に載せていただいたりしたものを見る度にすごく嬉しそうにしており、同窓会などで友達に自慢しているようです。苦労をかけたけれども恩返しできたかなと思います。大学のOGの皆さまもお力添えくださり、「道成寺」の公演時には、岐阜や山口などの遠方からも観に来てくれました。

     普段の家事について、主に私がやっており、夫は手伝ってくれるスタンスです。家事は手が空いている方がすればいいという考え方ですが、私は自分でしないと気が済まない性格で、自分が心地よく過ごすためについついやってしまいます。会の前はイライラしていますが、夫はたとえご飯が手抜きになっていたり、部屋が散らかっていたりしても文句を言う人ではないので助かっています。

    京田辺伝統芸能伝承研究会について

     京田辺市は奈良と京都の間にあり、天平文化を残しつつ、京都の文化も流れています。せっかく面白い土地に住んでいるので、お茶、お琴、着付けなどをされている友人と、地域における日本の伝統文化の普及と伝承のため、京田辺伝統芸能伝承研究会を立ち上げました。私はSNS、友人がホームページを担当しています。大人だけでなく、これから何かにチャレンジしようとしている若い人に読んでいただけたらと思い、情報を発信しています。

    京田辺伝統芸能伝承研究会ホームページ(別ウインドウで開く)

    今後の抱負を教えてください

     能の面白さ、奥深さを子ども達や能に触れることがなかった方、まずは地域の人から伝えていけたらいいなと思っています。能には、お堅い、敷居が高いというイメージがありますが、逆に能をすることによって、日本文化などいろいろなものを知ることができます。その中から自分の興味あること(私なら仏教)を見つけていただけたらと思います。今の人たちが能を分かりにくいという一番の原因は、神仏に対する信仰心が薄れていることだと思います。まず、信仰するかどうかは別として、日本の神道や仏教というものにもっと触れてもらうと、能というものの背景がわかって、より面白くなると思います。

     神楽が身近にある島根の子ども達は幼稚園の遊びで神楽ごっこをしているそうです。遊びが能の真似事であったり、近所の神社の舞台で能が演じられていたり、そういう風に能のある生活が普通になったらいいなと思います。

    インタビューを通じて・・・

     観世会館で女性能楽師が道成寺のシテ(主役)を演じるのは松井さんで史上2人目、40年ぶりの快挙です。それに満足せず、また新たな目標に向かって努力される姿に凜とした美しさを感じました。



     ご協力ありがとうございました。

    お問い合わせ

    京田辺市役所市民部人権啓発推進課

    電話: (人権啓発)0774-64-1336、0774-62-4343(男女共同参画)0774-64-1336

    ファックス: 0774-64-1305

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